top of page

新規症例-セラミックスで治療した審美症例

40代 / 女性
2009年11月症例

(高坂デンタルオフィス開業前の症例です)

リスク診断

リスクについて

歯科治療において把握しなければならないリスクは主に下記の4つです。

  1. カリエス(むし歯)のリスク

  2. 歯周病のリスク

  3. 噛み合わせのリスク

  4. 歯軋りのリスク

リスクの高い低いは人それぞれ

唾液の分泌量が少なくなるだけでむし歯のリスクは高まります。また全身疾患の一つである糖尿病は歯周病のリスクを跳ね上げます。病気自体の問題や老齢化だけでなく、血圧の薬、抗うつ剤、利尿剤などを長期間服用していると唾液の量はだんだん減少してゆきます。

そもそも歯や歯ぐきを弱らせやすい噛み合わせのパターンもあり、寝ている間の歯軋りはさらにダメージを助長します。
このように、いうまでもなくリスクの比率は「人それぞれ」です。歯ブラシはもちろん大事で、お口のなかのむし歯菌は少ないに越したことはありません。しかし「歯ブラシでプラークを徹底的に取り除きましょう」的な予防のアイデアだけでは、ポイントのズレた、効果の少ない予防指導になってしまうでしょう。

歯科治療にはリスクへの配慮が不可欠

高坂デンタルオフィスでは歯科治療前に、患者さん個人個人のリスクについて探り、そこから治療計画の立案を行います。

見た目を改善することだけが治療の目的だったとしても、そこに辿り着くまでには患者さんの口の中の特徴を捉えて的確な配慮をしなくてはなりません。美しい修復物を長持ちさせるためには、ただ材料を硬くすればいいということでもありません。

カリエスリスクについて

1.5-a.jpg
1.5-b.jpg

上の写真(図3)はこの方の2007年(40代)当時のものです。上の写真(図4)はその12年後、前歯の治療を開始した時の様子です。

12年前、初めてこの方のお口の中を拝見しました。口腔ケアーには高い意識をお持ちで、歯ブラシも時間をかけてされています。一見お口の中は綺麗に保っているのですが、残念ながらカリエスリスクは高そうです。当時そう判断した理由は以下の点にあります。

プラークは少ないのにカリエスが多い
酸を中和しにくい唾液の性質
柑橘系ジュースの嗜好
間食の多さ
硬すぎる歯ブラシの使用

むし歯予防の観点から、当時はマイナス要素が目立っていました。その後、歯ブラシ指導や生活習慣のアドバイスで不安要素は少なくなりましたが、唾液の性質までは変えることはできません。エナメル質を削りすぎない配慮は余計に必要でした。

したがってむし歯ができたときの治療は、CR充填を第一選択としていました。実際にその後もむし歯の再発は多くその都度治療はしていましたが、CR治療だったからこそ、二次カリエスが発生しても被害は小さくて済んでいたのかもしれません。もしもエナメル質を全て削るクラウン治療をしていたら、再びカリエスになった時のダメージはもっと大きくなっていた可能性があります。

しかし一方で、CRの範囲が広くなると十分に接着しない部分も生じて、逆にカリエスになりやすい状況が生まれる時もあります。治療の跡はつぎはぎだらけとなり、審美性の回復もより難しくなります。

歯周病リスクについて

歯周病検査、レントゲン診査などから、歯周病のリスクは小さいと判断いたしました。

噛み合わせのリスクについて

一言で噛み合わせといっても人の場合は数多くのバリエーションがあり、いいも悪いも見た目だけでは簡単には判断できません。天然歯の場合は問題なくても、人工物にとっては不利になる要素があります。

歯の接触具合からセラミックスへの負荷を考える

修復治療に安心な噛み合わせは、下顎を横にずらした時、上下の犬歯が最も強く接触するタイプです。顎を左にずらした時の様子をチェックすると、上下の犬歯が最も広い面積で接触し(図6、黄丸)他の前歯はセパレートしています。L-1、L-2をセラミックスに置き換えても、先端が欠けてしまう問題は比較的起こりにくいでしょう。
しかしこの方の場合は、下顎を右にずらした時の上下前歯の接触が少し気になります(図5、黄丸)。上下の R-2 の先端が最も強く擦れていることがわかります。ここをセラミックスに置き換えたとしたら、その後の噛み合わせの変化を観察し続けなければなりません。必要な時には噛み合わせの調整もしないと、セラミックスクラウンは長持ちしないかもしれません。

2.jpg
3.jpg

どなたでも、噛み合わせは変化し続けます。この方の噛み合わせの変化を右上の犬歯で追いかけてみます。下の2007〜2016年の写真を見比べると、年月と共に犬歯の先端が擦り減っていることがわかります。

5.jpg
6.jpg

2017

2017

犬歯がすり減るほど、代わりに上下の R-2 の接触が強くなるというわけです。セラミックス修復をした場合、噛み合わせの変化を観察し続けなければなりません。

治療後のアフターケアやメンテナンス、色々な意味で必要な方は大勢いらっしゃいます。

歯軋りのリスク

夜間の歯軋りは噛み合わせの問題を増幅させます。わずかな接触でも、その後の大きな問題に発展させてしまう大きな要因が歯軋りです。
歯軋りの程度はまさに人それぞれ、個人差があります。お口の中を見れば大雑把に傾向を掴むことはできますが、程度を確かめることは特別な装置を使わない限り不可能です。
この方の場合も歯軋りをしていることに違いはないのですが、特徴的な所見はさほど目立ちませんでした。犬歯の擦り減りを観察しても10年間でこの程度でしたら、歯軋りは極端なリスクとして考えなくても良さそうです。

夜間、寝ている間の歯軋りは、日中の噛み締めとは比べものにならないほどの力が発揮されます。つまり、噛み合わせの不都合が微々たるものであったとしても、歯軋りによってとてつもなく増幅されるのです。わずかな接触に見えても、修復物にとっては破壊的な力が発生する現場かもしれません。本当のところ、どなたにおいても油断はできません。

このように、①〜④のリスクがどの程度潜んでいるのかをできる限り確かめた上で、治療方針の妥当性を固めてゆきます。患者さんの希望に無理なくお応えできるのか?それともそこにはリスクが存在するのか?リスクに対応するために治療後も観察とメンテナンスを継続することをご理解いただけるのか?

見た目の改善が目的の、いわゆる「審美歯科」と呼ばれる治療だったとしても、全体像の把握の上に治療方針を決定しないとなりません。治療とは健全な歯質の犠牲の上に成り立ちます。エナメル質がちゃんと成仏できるように、治療計画には常に必然性を求めて方針を定めます。

歯軋りのリスク
リスク診断
カリエスリスクについて
歯周病リスクについて
噛み合わせのリスク

治療経過

計画を決めたら、あとは目標に向けまっしぐらです。美しい歯を取り戻したいという患者さんに満足していただけるように、技工士さんと共にできる限りの腕を振るわなければなりません。

ステップ1 所見観察

1.JPG

左上2番の脱落による審美障害を主訴に来院された患者さんです。

1a.JPG

一見、むし歯で折れたのかと思いますが、上下前歯の噛み合わせの関係が大きく関与していた可能性があります。

2.JPG

奥歯で噛んだ時、下の前歯が上の前歯にほぼ隠れて見えなくなってしまいます。日常から前歯に負担がかかりやすい特徴を背負った噛み合わせです。夜間の歯軋りが関係してか、下前歯の切端も斜めにすり減っているようにも見えます。上下の前歯が常に不要な力にさらされていることは間違いありません。

3.JPG

修復治療をしても人工物がいつ外れてしまうか、不安が付きまといます。

 

ステップ2 治療方針

4.JPG

外れてはいませんが、他の3本のセラミックスクラウンも健全とはいえない状況です。すでに古く劣化も進んでいた状態でしたので、上顎前歯は4本まとめて修復することになりました。

5.JPG
6.JPG

ステップ3 レントゲン

7.JPG

外れた歯のレントゲン写真です。クラウンを被せるためには、根管治療をして土台を建てなければなりません。神経をとることになるので、大変に残念な犠牲を伴います。

ステップ4 自然な仕上がりをご提案

8.jpg

どなたでもそうですが、新しくセラミックスクラウンを被せる時は、より白く美しい仕上がりを望みます。ところがこの方の天然歯の色調はA-4系統に近く、かなり暗いタイプでした。修復物だけ白くしても、お口の中では浮き上がって逆に不自然な印象を与えてしまいます。

9.jpg

新しいセラミックスクラウンの白さがより自然に見えるように、天然の前歯にはホワイトニングを提案いたしました。

ステップ5 ホワイトニング

10.JPG

ホワイトニングにも限界はありますが、目につく部分はA-4系統からははるかに明るくなりました。

11.JPG

ステップ6 仮歯をセット

12.JPG

左上2番には土台を建てて、修復予定の4本に仮歯をセットしたところです。
人工物が歯肉にダメージを与えていないかを確認します。歯肉が赤く変色したり腫れが残っているような時期に、精密な型採りはできません。歯肉のコンディションを整えるための仮歯でもあるのです。

ステップ7 型採りの準備

13.JPG

型採り直前の様子です。歯肉も綺麗で、わずかな問題もなさそうです。

ステップ8 仕上げ削り

14.JPG

型取り直前に仕上げ削りをいたしますが、決して器具で歯肉を傷つけてはなりません。少しでも血が滲んでいるとそれだけで精度の高い型採りが不可能となるのです。生きた細胞である歯肉は非常にデリケートです。被せ物の治療をするときこそ、細心の注意が必要です。

15.JPG
16.JPG

ステップ9 型採り

17.JPG

出血した状態で処置を進めると、血液によって最も大事なマージン(境目)が隠れてしまいます。歯肉にダメージを与えていないからこそ、初めて精密な型採りが可能になります。
セラミックスクラウンをより美しく見せるためには、セラミックスクラウンを歯肉の中から立ち上げなければなりません。歯を削るときは歯肉を傷つけないようにするための注意も必要ですし、型採りにはより高度なのテクニックが求められます。

ステップ10 セットの準備

18.JPG

歯科医師が綺麗に型採りをすれば、技工士さんは精密な作業をしてくれます。セット時の模様ですが、歯肉に炎症はほとんど生じていません。炎症が残っているということは出血しやすいということです。その状態で修復物のセットに臨めば、セメントに血液が混じる可能性があるのです。セメントに余計なものが混ざれば、当然接着力に影響します。
被せ物の治療をするときでも、終始歯肉のコンディションには目を光らせてなくてはなりません。そのためには、やがては処分される仮歯の精度も高めなければならないのです。

ステップ11 セラミックスクラウンをセット

19.JPG

セット直後の写真です。犬歯をホワイトニングしたことで新しいセラミックスクラウンもより白い色調で作ることができました。口元全体が明るくなった様子が明らかです。

20.JPG
21.JPG
22.JPG
23.JPG
24.JPG
25.JPG
26.JPG
27.JPG

どこから見ても歯肉には赤みや腫れ、炎症初見は全くありません。歯肉が赤紫色に腫れたままですと、歯がいくら白くて綺麗でも、口元が表現する印象には違和感が強く残ります。
技工士さんがいつも努力してくれるおかげで、私もほぼ納得できる仕上がりです。患者さんも大変満足してくださったことが何よりでした。

ステップ12 メンテナンス

以下の写真はセット後10年の状況です。

歯肉に炎症自体は全く生じていませんが、経年的に退縮しています。

セラミックスの艶も無くなっており、経年的な劣化は否めません。

28.JPG
29.JPG

セラミックスはセットしたらそれっきりではありません。今が美しくても、それを長持ちさせるためのチェックとメンテナンスは必要不可欠なのです。仮に「審美歯科」というカテゴリーの治療だとしても、噛み合わせや咀嚼器官の基本を十分に理解して、審美領域の治療にも当てはめる必要はあるはずです。後の問題を予想、回避するためのアイディアを惜しんではならないと考えています。

治療概要

治療費

オフィスホワイトニング 16,500円×3回=49,500円
テンポラリークラウン(6本分) 5,500円×6=33,000円
印象採得 11,000円
セラミックスクラウン(6本分) 176,000円×6=1,056,000円

自費治療費合計 1,149,500円

リスク・副作用

治療中は仮歯を使用していただきますが、思いがけないタイミングで外れてしまうことがございます。特にラミネートベニア予定の歯の仮歯はその危険性が余計に高いです。大事なお相手との食事の予定は立てない方がいいかもしれません。
セラミックスはどうしても欠ける可能性がある素材です。食事中は少しだけでも意識して、硬い食材に一気にかぶりつかないように気をつけましょう。噛み合わせの変化によっては、夜間ナイトガードの使用をお勧めする場合あります。

治療担当

歯科医師 高坂昌太

関連症例

11.jpg

インプラントなどの
複合症例

60代 / 女性

治療経過
ステップ1
ステップ2
ステップ3
ステップ4
ステップ5
ステップ6
ステップ7
治療概要
ステップ8
ステップ9
ステップ10
ステップ11
ステップ12
bottom of page