不安定なかみ合わせを
咬合調整で改善した例
30代 / 女性
2019年1月症例
治療経過
咬合調整前
本来、前歯は奥歯を守り奥歯は前歯を守る、という相互的な関係があるのですが、この方の前歯はしっかり噛み合っておらず、そのために奥歯にかかる負担が許容範囲を超えていました。
資料4〜7の青色のマークが、歯軋りの時に上下の奥歯が擦れ合う箇所です。青いマークが多いほど、歯軋りの力が増してゆく傾向があります(顎関節症コラム2 を参照)。関節円板がずれて顎関節症が発症する可能性が高かったので、精密検査をお勧めしたところ、顎機能検査に応じてくださいました。
顎機能検査の実施
顎の動きを観察して、かみ合わせの力が顎関節に悪い影響を及ぼしていないかを確か
めます。資料 8 は歯ぎしりをしている時の様子です。
資料8
クローズアップした図で左右の顎関節の動きを上と正面から観察します(資料9、10)。
本来ならば直線的に動くはずのラインに幅があり(赤矢印)、そしてスタート位置(赤丸)から後方、上方、外側であるピンク色のエリアにまで顎関節が移動します。顎関節の靭帯が機能が衰えている証です。このような動き方では食事の時に顎に力を込めることができず、効率よく噛めなくなるのです。
他の関節に例えると、膝の関節が反対側にまで曲がって、踏ん張りが効かない状態と等しい状態です(資料11)。
問題視するべき顎関節の可動域は、「上、後、外側」(資料9、10のピンク色のエリア)の 3 方向です。そして動きの「幅が広い」(資料9、10の赤矢印)
これらが顎関節の動きの4大ネガティブ要素です。
これら 4 つの要素が揃ってしまうと、さらに懸念するべき問題が顎関節症です。乱雑に動く顎関節を放置すると、関節円板があらぬ場所へ外れてしまいかねません。そうなると口が開かなくなったり激しい痛みが出たり、顎関節症の症状が一気に悪化してしまうのです。
顎関節症リスクを確かめるためには、目では見えない顎関節の動きを追いかけることがとても重要です。
咬合調整後
通常ならば、まず矯正治療で根本的な問題解決を図らなければならない状況です。しかし費用と手間と治療期間と生活スタイルの問題で、矯正治療をやりたくてもできない方も大勢いらっしゃいます。矯正治療を待ってる間は日常の不自由を受け入れなければならないし、顎関節症が悪化する可能性も考えられます。
いま一部で流行ってる?セラミックス矯正のように、エナメル質を全部削り、セラミックスを被せる治療では決してありません。奥歯が余計に接触しないように、歯の一部分だけ形を整えるに過ぎない調整です。天然のエナメル質を削るとはいえ、利点が上回る場合に施す治療です。
余分な接触である青マークを削除し、左右の臼歯が同じ高さでかつ点状に接触するように調整することは非常に細かな処置になります。かみ合わせの改善のためですが、決して削ればいいというわけでありません。調整する場所と量を常に考えながら決して削り過ぎないように、患者さんと共に根気のいる治療となります。
しかしかみ合わせを整えるだけで、顎関節の動きが健全になることも事実です。左関節の後方への動きは改善できたとは言い難いですが、それでも動きの幅は縮小し(図19、20 青矢印)、ピンクのエリアへのはみ出しは調整前と比べると激減しました。患者さんが咀嚼しやすくなったと実感してくださるほど、顎運動が健全に戻りました。この調子が続けば、顎関節症の悪化の心配は無用でしょう。