
歯科治療コラム
顎関節1
顎関節の仕組み
顎関節症の病態は様々です。ここでは「歯ぎしり」と「関節円板と靭帯の異常」との関係に焦点を当ててご説明をいたします。
顎関節だけの特殊な動き
体の関節の動き
通常、体の関節は蝶番運動、もしくは回転運動しかしません。例えば股関節の場合、大腿骨のボール型のジョイントが、腰骨側のくぼみにすっぽりとはまり、決まった範囲の中で回転運動を営みます(資料1、2)。


もしもこの関節が外れてしまったら、それは大怪我の状態ですね。当然満足には歩けないでしょう。肩、肘、膝など他の関節も独自の形はしていますが、関節の骨と骨が離れ離れになってしまうと「脱臼」という病名がつき、通常は整形外科で治療を受けなければなりません。通常全身の関節は、動作をしても「回転中心」は動かないのです。
回転しながら前後にも動く顎関節
さて歯科において治療の対象となる関節はいうまでもなく顎の関節です。ここには他の関節の動きとは違う大きな特徴があります。顎関節は回転しながら、同時に前後にも動きます。つまり顎関節は、常に脱臼しながら機能しているのです。
実際の患者さんの動画記録を見ると、前後運動よりも開閉口運動の方が顎はより前方に移動することがわかります。
資料 3 前後運動と開閉運動
そして、顎の関節が前後に移動できるからこそ、下顎全体としては左右に動かすことができ、ものをすりつぶすことが可能になります。
ライオンのような肉食動物の顎は回転運動しかしません。獲物を捕獲すると咀嚼もせずにそのまま丸飲みです。牛のような草食動物は、顎を横に動かして牧草を十分に擦りつぶしてから飲み込みます。人間は雑食なので食物を噛み切ったり擦り潰したり、顎が機能する時は単純に回転運動だけしているのではないのです。
資料 4 左咀嚼運動
上の資料 4 は左側で咀嚼をする時の下顎骨全体の動きです。左側(向かって右側)に顎の中心が移動しながら咀嚼する様子がわかります。
特殊な動きをするからこその問題点
顎関節には上下の骨に挟まれるようにして「関節円板」という軟骨が存在します。この関節円板が連動するおかげで、顎がスムーズに動くのです。
このように顎関節は他の関節と違って、脱臼する(前後に動く)からこそ健全に機能する非常に特殊な関節なのです。しかし動きを滑らかにするための関節円板が、顎の痛みの原因になることがあります。


顎関節症とは?
写真(資料 7)は前方に飛び出してしまった関節円板を表します。口を開けるには顎関節が前方へ動かなければなりませんが、関節円板がそれを邪魔しています。顎の運動時に関節円板がズレるタイミングは人によって様々ですが、円板がズレることで顎の動きに制限がかかり、クリック音や痛みが発生します。
これが顎関節症の一例です。

本来は顎の動きを滑らかにするための関節円板ですが、その位置がずれてしまうと、関節の動きを邪魔したり痛みの原因にもなってしまうのです。
顎関節脱臼
顎関節の脱臼も、広い意味では顎関節症の一つの症状です。
顎関節は脱臼するのが当たり前だとはいえ、口を閉じた時には元の位置に戻ることが大前提です。一度前に出た顎関節が口を閉じても元の位置に戻らなかった場合、それは病的な脱臼です。もともと顎関節の靭帯が緩んでいる方に起こりやすいです(コラム「顎関節症2 歯ぎしりとの関係」参照)。
こうなってしまうと上下の歯は噛み合わなくなるので、ご自身でもすぐに分かります。顎が外れた瞬間は自分でもびっくりして狼狽えてしまうでしょう。自分で意識して戻せる方もいれば、何かの弾みで自然に戻る場合もあります。
しかし簡単にはいかないことがほとんどです。その時はどうか焦らずに、外れた顎を元に戻せる歯医者さんを受診しましょう。顎が外れていると大変喋りにくいですが、慌てずに状況をゆっくりお伝えください。

顎関節症のリスク
そもそも顎関節症はいくつもの要因が重なって発症します。
それは、
①噛み合わせ、②歯並び、③骨格、④習癖、⑤歯ぎしり
などが挙げられます。
しかしどれか一つが当てはまればすぐに顎関節症になるわけではありません。いくつかが組み合わさることにより、発症のリスクが高まるとお考えください。
① 〜 ④は確かに負の要素にはなり得ますが、そこに歯ぎしりが加わると問題は途端に大きくなります。関連ページの「 歯ぎしり(ストレス緩和の観点から)」で記載していますが、歯ぎしりは小さな問題を極端に増幅させます。
噛み合わせの小さな問題はそれだけでは病につながらなくても、歯ぎしりの影響が加わることによって、痛みや機能不全につながることが多いのです。
顎関節症が発症するリスクの考え方は、次の表現の方が適切かもしれません。
顎関節症が発生する因子
① 噛み合わせ、② 歯並び、③ 骨格、④ 習癖 のいずれか
➕
歯ぎしり