審美歯科は独立した科目ではない
審美歯科という標榜はあくまでも俗称で、歯科医学における正式な名称ではあありません。ですから歯科医師によって「審美歯科」の意味合いは微妙に違うでしょう。 患者さんにとって馴染みのがあるで、私もここでは審美歯科という言葉をつかいますが、私の中での意味、もしくは位置付けは、「歯科治療における審美領域」ということになります。
自由(自費)診療では、からだに優しく生体に反しない限り、自然で美しいものを提供しなければなりません。つまり歯科医療の中で審美の部分だけが独立した特別枠ではないということです。
美しさを追求することも、歯科医療の中では重要な要素です。患者さんはもちろん、私自身も、より自然でより美しい修復物を望みます。しかし、美しさを常に最優先とする考え方は、細胞とのマッチングを軽視して、歯肉の炎症につながることもあるので注意が必要です。
機能や生体に過剰な犠牲を求める「美しさ」は美しくない
見た目上の問題点を改善することが1番の目的だったとしても、治療することのデメリットが全て許されるわけではありません。
審美治療を行ったとしても…
エナメル質や歯髄の犠牲は大きすぎないか?
セラミックスが原因で歯肉が炎症を起こしていないか?
噛み合わせに対する工夫は?
これらに対して十分に配慮することが、歯科医師としての最低限の義務であると考えます。これは歯科医師である私の心構えなので、患者さんはあまり関心がないかもしれません。
私は巷で「審美歯科」という看板を見るたびに、思うことがあります。歯科医療に審美という言葉を用いる必要が本当にあるのでしょうか?
絵画や彫刻だけでなく洋服、アクセサリー、食器、車、時計、建築物…、世の中には美しいものがたくさんあります。しかしどなたも、審美車、審美ドレス、審美ジュエリー、審美キッチン用品、などとカテゴリー分けをしているお店は見たことはないはずです。
むしろ、本当に美しいものほど「美」を宣伝していないような気もします。「美しさ」の定義は永遠に曖昧です。歯科にだけ用いられていることに、違和感を感じる方もすでにいらっしゃるかもしれません。
そのお考えを、私もホームページで患者さんと共有したいと思います。