歯科治療コラム
顎関節症3
コンピューター診断と噛み合わせ調整
顎関節症の病態は様々です。ここでは「歯ぎしり」と「関節円板と靭帯の異常」との関係に焦点を当ててご説明をいたします。
咬合調整の位置付け
「顎関節のしくみと顎関節症」「歯ぎしりと顎関節症」のページにて、噛み合わせの不調和が関節円板の位置をズラし、顎関節症の引き金になりうるということをご説明しました。
しかし顎関節症になるまでに症状が全くないということではありません。
痛みではなくても日常から違和感や疲労感を無視できないでいるとしたら、噛み合わせの改善が必要だというサインかもしれません。
仮に本当に噛み合わせの調整がその後の顎関節症の悪化を防いだとしても、「起きていないことを防げた」という実感は得にくいです。しかし咬合調整によって食事がしやすくなったとお喜びになる方は大勢いらっしゃいます。歯自体は健康でも妙な噛み癖のせいで実際には活用していない歯があったとすると、こんなもったいない宝の持ち腐れはありません。
噛み合わせのバランスがよくなると、首、肩、頭部の疲労感も生まれにくくなります。調整をして顎の動きにバランスが戻ったある患者さんが、「寝る時にアンメルツを塗らなくてすむようになりました」とおっしゃいました。その患者さんにとっては予想外の大変嬉しい効果だったようです。しかし歯科医院ではそれを目的に治療はできません。違うページでも申してますが、あくまでも「おまけの効果」だと思ってください。
噛み合わせ調整の目的
顎関節症の症状を和らげる
顎関節症が再発しにくくする
顎関節症になりにくくする
噛み合わせ調整は上に掲げたものを目的にいたしますがそれだけではありません。
機能負担の偏りをなくすことが重要で、それにより健康な歯を十分に活用できるようになり、その結果、咀嚼がしやすくなるのです。
噛み合わせが整うと顎の動きはスムーズになります。顎の機能運動が穏やかになった証と言える検査結果の一つです。患者さんの感覚だけでなく、実際の動きをデータ化し治療の評価を総合的に下します。
コンピュータによる
顎関節の機能診断
咬合調整をするべきかどうかの診断は大変慎重に行わなければなりません。なぜなら、顎関節の健康のために天然のエナメル質を削る必要性があるかどうかを診断しなければならないからです。歯科医師や患者さんの感覚と、お口の中の見た目の様子だけでは、目に見えない顎関節の診断は不十分です。
高坂デンタルオフィスでは、顎関節の動きをコンピュータで計測し、運動の様子と顎機能に問題がないかを確かめてから最終的な診断を下します。CTレントゲンやMRIの撮影も診断には有効ですが、あくまでも動きのない状況しか捉えることができません。当医院では顎関節の動きを観察した上で、顎関節症のリスクや病状の診断を下します。
顎関節の機能のためとはいえ、咬合調整はむし歯ではないエナメル質を削る治療です。削るかどうかを判断するためには、より実質的な診断材料がなければなりません。目に見えない顎関節の動きや機能を確かめるために、高坂デンタルでは特殊な計測装置を用いた検査結果から診断を下します。
【CADIAX 顎運動計測装置】
コンピュータに繋いだ計測装置を用いて、目に見えない顎関節の動きを追いかけます。
検査時、器具の重みで多少の疲労は感じると思いますが、苦痛やお痛みはありません。検査時間はトータルでおよそ1時間です。
検査項目1-歯ぎしりについて
「顎関節症2 歯ぎしりとの関係」にて歯ぎしりが顎関節にどのような影響をおよぼすのかを述べました。顎関節症のリスクを探るために顎の運動を確かめます。
下の資料 2と4は、顎関節を上からのぞいた時の歯ぎしりの動きです。顎関節は脱臼しながら機能すると述べましたが、あくまでも前方向のみの話です。顎関節がまっすぐ噛んだときの位置よりも後ろと外側に動くとしたら、コンディションは不健全です。
資料2 右顎関節
資料4 左顎関節
この患者さんの場合、特に左の顎関節は可動域が後ろと外側にも広がっています。そして可動域の幅が広いことも(資料 3と5、赤矢印参照)マイナス要因です。
これらの所見が目立つほど、顎関節が緩んでいると表現します。関節円板が外れやすい、もしくはすでに外れていてもおかしくない状況です。
歯ぎしりした時の健全な動きも示します(資料 6)。まっすぐ前方に動き、決して後ろや外側にはみ出ません。動きの幅も非常に狭く(資料 7、青矢印参照)、顎関節にはストレスの影響が蓄積していないことが予想されます。
資料 6 健全な顎関節の動き
咬合調整もこの状態に近づくことを期待して行います。これを見ると、先の動画(資料 2、4)がいかに無秩序、無軌道、病的に動いているのかがお解りになるかと思います。
膝関節の靭帯が不幸にも損傷して機能を損なうと、膝が不適切な方向にも折れ曲がってしまいます(資料 8、9)。
正面
側面
膝がガクガク安定しなくなり踏ん張りがきかず、歩くこともままならないでしょう。
顎関節の場合は、運動範囲が後や外側に広がっていることが、機能が不健全の証です。顎関節の不快感、痛み、周囲筋肉の疲労感などの症状と関連している可能性があります。
検査項目2-前後左右運動
噛み合わせの調整で顎がスムーズに動くようになり、単純な運動機能が向上したことがデータからも説明できます。
資料 10 調整前の顎の動き
資料 11 調整前の顎の動き
検査項目3-咀嚼運動
咀嚼運動は顎関節の重要な機能の一つです。食事中の顎の動きは人によって違いがあります。咬合調整でかみ合わせの問題を取り除くと、咀嚼するときの筋肉が労感を溜めにくくなる運動パターンに変化します。その結果、顎関節周囲の疲労感から解放される方は大勢いらっしゃいます。
咀嚼運動(その1)
資料 12 調整前の動き
上下的な動きにまとまりのない。どこで噛んでいいか分からない状態。筋肉の疲労感にお悩みだった。
資料 13 調整後の動き
噛むべき位置がわかりやすくなり、動きが安定した。筋肉の疲労も溜まりにくい楽な噛み合わせになった。
咀嚼運動(その2)
資料 14 調整前の動き
円を描く咀嚼運動のサイクル。噛み合わせの問題が機能に影響を与えている。
資料 15 調整後の動き
縦方向の動きに変化した。無駄な動きがなくなり、下顎が楽に動かせるるようになった。
高坂デンタルオフィスでは、顎関節の平穏と顎機能の向上を目指します。そのためには噛み合わせの調整が有効な手段になりうる、ということをお伝え申し上げます。